時間がありすぎ日記

ガムシャラに働いた後、関西で主婦生活に突入。時間がありすぎて途方に暮れているので日々思ったあれこれを。

電通過労死で思い出した過去の私。

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過労死認定された電通新卒採用の女性のニュース。100時間を超える労働に、理不尽な説教など、彼女のツイートに遺された言葉はあまりにも痛々しく、胸が痛い。

 

そして、私は自分が新人だった頃のことを思い出さずにはいられなかった。

 

広告会社ではないが、私も似たような業界に入社した。私が配属された部署は、若手ばかりが集まっている特殊なセクションで、過剰に体育会系な体質や、長時間労働、激しい飲み会などで社内に悪名を轟かせていた。酒が全く飲めない上に、体育会系とは程遠い人生を歩んできた私がなぜ配属されたのか意味が分からなかったが、それは周囲にとっても同じだったようだ。

その部署にいる若手は、強豪ラグビー部出身をはじめとするバリバリの体育会系出身者が大多数で、文化系のモヤシッ子タイプは徹底的にイビられるような環境だった。男性ですらそうなのだから、女性など言わずもがな。配属されて挨拶をした瞬間に「女にいられると迷惑」と言われたり、「俺、東大出たヤツで頭が良い人間に1人も会ったことないんだよね」などと言われた。その部署では、女性はほとんど続かないというのが定説だった。それまで配属された女性のほとんどは、途中で体を壊してリタイアするか、人事に泣きついてイレギュラー異動していた。言い伝えられている過去の成功者は、たったの1人だけだった。もちろん、配属時点でそのセクションにいる女性社員は私のみ。

業務はハードだったが、電通の彼女ほど激務だったわけではない。上記被害者のツイートを読む限り、おそらく実際には100時間を優に超える超過勤務をしていたと思われるが、私の場合は最長でも24時までだった。それ以上の残業は禁じられていたからだ。当然、やることがなくても先輩が残っていたら帰ることはできない。ある種のチーム作業だったからというのもあるが、ダラダラと残っている先輩のために無駄に時間を過ごすのは苦痛だった。

ただ、噂通りに激しい飲み会は多かったので、そんな日は深夜3時まで拘束されることが当たり前だった。特に12月ともなると、飲みはほぼ毎日。毎日3時間睡眠できればいい方だった。それでも、土日は基本的に休んでいたのでマシだったのだが。

女性ならではの苦しみというのも、もちろんあった。女性社員の顔面偏差値がかなり高い環境の中にあって、これといって美人でもなかった私は、最初から「女子としては失格」という扱いだった。東大だし。「お前が配属になって本当に残念」「なんだよその変な服」「なんか今日いつにも増してブスだな」などの発言は日常茶飯事。わざとブリッ子セリフを言わされ、「オエー」とやられることもあった。しかし、無駄に言い寄られたりするよりはずっといい。聞き流していればいいのだから。そう思っていた。

むしろ、顔が可愛い若手社員の方が悲惨だった。"偉い人のお気に入り"になることで、夜な夜な接待の場に侍らさせられるからだ。その場でニコニコ笑って、たまに「すごいですね~」と言うだけの役目。本気で自分に気があると勘違いする男も頻繁に現れる。仕事で評価されても、「〇〇さんのお気に入りだから」「〇〇さんの愛人らしいよ」という噂で片付けられる。私は「美人でなくて良かった」と心底ホッとしていた。私がそういう場に招かれるのは、美女枠の子がドタキャンしたときの代打だけだったので、数時間だけ空気のように扱われるのを我慢していればよかった。

では、男ならば楽だったのかといえば、そうではない。男は飲まされ、食わされ、殴られ、蹴られ、罵倒された。女の場合は、殴られたり蹴られることはない。しかし、だからこそ取引先の評価が高かったりすると、「みんな女には甘いから」「女は楽でいいな」と陰口を叩かれる。どんなに頑張っても正当に評価されないくらいなら、男と同じように殴られた方がマシなんじゃないかと思うことすらあった。それでも、「女はやっぱりダメだな」と言われることだけは避けたかった。何かが麻痺していた。

「女であることに甘えるな」と言ってくる先輩もいれば、「女であることを利用しろ」と言ってくる先輩もいた。後者の説教は本当にキツかった。「女であることを利用しろ。根性見せろ」という圧力にだけはどうしても耐えることができず、ある瞬間に私は恐怖でいっぱになってしまった。そして、異変を感じ私を会議室に連れていった先輩の前で、泣いた。そのことを知った上司は激怒し、件の発言をした人間たちに猛烈に抗議した。その日以降、少しだけ生きやすくなった。

 

私の様子に気づいてくれた先輩や、私の代わりに怒り狂ってくれた上司がいなかったら……そう考えると恐ろしくなる。「女はダメだ」と思われたくないばかりに、女性としての尊厳を破壊されそうになっていることにも、気づかないところだった。電通で何があったのか本当のところは分からないが、問題の本質は長時間労働だけにあるのではない。それだけは分かる。そして、今の私は確信を持って言える。こんなのは間違っている。